大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所 平成7年(行ウ)13号 判決

原告

土屋毅

右訴訟代理人弁護士

高橋一郎

被告

(猪苗代町長) 津金要雄

右訴訟代理人弁護士

福西宜孝

事実及び理由

第二 事案の概要

二 争いのない事実等

1  原告は、福島県耶麻郡猪苗代町の住民であり、被告は、猪苗代町長の職にある者である。

2  本件入札から本件契約締結に至る経緯

(一)  猪苗代町は、本件工事に関し、指名競争入札を行うこととし、平成七年六月本件入札に参加する工事請負等業者(以下「指名業者」という)にサトーデンキ、渡部電気など合計七社を選考し、同年七月三日、同指名業者七社に対し、「指名競争入札施行について」と題する通知(以下「本件通知」という)を出した。

また、本件通知には、入札の条件として、細部については猪苗代町財務規則(以下「財務規則」という)及び猪苗代町工事請負契約約款による旨の記載がなされていたが、地方自治法施行令(以下「施行令」という)一六七条の六第二項、財務規則一二三条二項、一一二条七号に規定される「入札に参加する者に必要な資格のない者のした入札及び入札に関する条件に違反した入札は無効とする」旨の記載がされていなかった。

(二)  同月一四日午前一〇時三〇分、サトーデンキ、渡部電気など七業社が参加して本件入札が行われた。その開札の結果、サトーデンキの入札価格が予定価格内で、かつ、最低価格である五八五〇万円であったが、その日の午後になって、サトーデンキが施行令一六七条の一一第二項を受けた猪苗代町昭和六一年一二月一八日告示第三五号で定められた町の指名業者となりうる資格を有しておらず(弁論の全趣旨)、町の指名業者となりうる者の名簿に記載されていない業者であって、本件入札に参加する資格を欠いていたことが判明した。

(三)  同日、猪苗代町は、サトーデンキに対して事情を説明し、本件入札における落札者となることを辞退するよう説得したところ、同社はこれを承諾し、辞退を表明した。

(四)  猪苗代町は、サトーデンキを除く六社の同意を得、同月一八日、本件入札において、サトーデンキの次に低価格の入札価格で、予定価格の範囲内で入札していた(弁論の全趣旨)渡部電気と請負代金七一五〇万円で本件契約を締結した。

3  原告は、平成七年一〇月二日、猪苗代町監査委員に対し、本件契約の締結は違法であり、違法な公金支出であるから、被告は町に対して、サトーデンキの入札価格と渡部電気の契約価格との差額である一三三九万円(消費税三九万円を含む)につき損害賠償すべきであるとして監査請求したが、監査委員は、同年一一月三〇日、本件契約は違法とはいえず、被告に賠償責任はないとして申立てを棄却し、そのころ、原告に通知された。〔中略〕

五 争点

猪苗代町と渡部電気との間の契約の適法性

1  本件入札における施行令一六七条の一〇第一項の適用の可否

2  サトーデンキの入札の効力

第三 裁判所の判断

一  本件通知が、施行令一六七条の六第二項、財務規則一二三条、一一二条七号の記載を欠いた瑕疵は、本件入札手続全体を無効とし、再入札を行うべき程の重大な瑕疵とはいえない。

二  そこで、サトーデンキの入札について、施行令一六七条の一三、同条の一〇第一項を適用することの当否について判断する。

施行令一六七条の一〇第一項は、普通地方公共団体の長は、一般競争入札により工事又は製造の請負の契約を締結しようとする場合において、予定価格の制限内で最低の価格をもって申込みをした者の当該申込に係る価格によってはその者により当該契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認めるとき(前段)、又はその者と契約をすることが公正な取引の秩序を乱すこととなるおそれがあって著しく不適であると認めるとき(後段)は、その者を落札者とせず、予定価格の制限の範囲内の価格をもって申込みをした他の者のうち、最低の価格をもって申込みをした者を落札者とすることができる旨を定めており、同条の一三は、指名競争入札の場合につき、一般入札に関する右規定を準用している。

右前段は、不当に低価な入札について、その価格によっては、その入札者が契約の完全な履行をせず、そのために地方公共団体が損害をこうむるおそれがあると認められるような場合を指し、後段は、その入札者と契約を締結することが社会通念上正常な取引の関係に著しく反するもの、公序良俗に照らし疑問のあるような場合を指す。右後段が設けられた趣旨は、契約を締結しようとする者の資産信用の点からいって、その申込み価格によってその者により、契約不履行になるようなおそれがない場合でも、その者と契約を締結することが公正な取引秩序を乱すおそれがあり、著しく不適当であると認められる場合は、その者を排除し次順位者をもって契約の相手方とすることができるようにしようとするものである。

本件入札手続は、本件工事の規模が大きいことに加えて、工事内容が、特に安全性に配慮すべき町立小学校の電気設備工事であることに鑑み、契約の本旨に適合した履行を確保するため、発注先の請負業者には、建築業法三条に基づく電気工事業者としての許可を受け、猪苗代町長からの電気工事請負につき所定の実績がある者に限定することを意図し、その資格を有する者をして落札せしめるために、特に有資格者を対象とした指名入札とされたものと解される。ところが、実際には、建築業法三条に基づく電気工事業者としての許可を受けておらず、猪苗代町の電気工事を請け負った実績もないサトーデンキにつき、町は誤って指名業者に選考してしまい、同社が最低価格による入札をしたのである。この場合サトーデンキを落札者として定めるのは、資力、事業能力、信用その他の実情を勘案して、適当であると認められる特定多数の競争加入者を選考して競争させ、地方公共団体に最も有利な条件を提示した者との間に契約を締結するという指名競争入札の本質的意義を没却するものであり、社会通念上正常な取引の関係に著しく反し、公序良俗に照らし疑問のあるような場合に該当するといえる。

この点、原告は、右条項の適用範囲を拡げると、最低入札者を排除して、二番札の業者との契約を可能とすることになり、入札制度の本質をも覆すゆゆしき事態を生じさせると主張するが、最低入札者を落札者とすると、社会通念上正常な取引の関係に著しく反し、公序良俗に照らし疑問のあるような場合に限って右条文を適用すれば、入札制度の本質を覆すことはないと思われる。

そうすると、町長が、本件入札手続において、施行令一六七条の一三、同条の一〇第一項を適用して最低価格の入札者であるサトーデンキを落札者とせず、予定価格の制限の範囲内の価格をもって申込みをした他の者のうち、最低の価格をもって申込みをした者である渡部電気を落札者とした判断には、違法な点は認められない。

なお、原告は、本件ではサトーデンキが落札者となる権利を放棄しているから、町が、同社を落札者とし得ない場合だったのであるから、同項適用の前提を欠くと主張する。しかしながら、競争入札においては、自動落札方式が原則とされ、普通地方公共団体は、最低価格入札者を落札者としなければならず(地方自治法二三四条三項)、普通地方公共団体が競争入札につき入札保証金を納付させた場合において、落札者が契約を締結しないときには、入札保証金が没収されること(同条四項、この場合、施行令一六七条の二第一項七号によれば、随意契約となる)等に鑑みれば、入札者が入札を撤回すること(または、落札者となる権利を放棄すること)はできないものと解される。

三  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、被告が、町と渡部電気との間で本件契約を締結したことは適法であることになり、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木原幹郎 裁判官 林美穂 野口佳子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!